4,声優事務所とゲームメーカー及びラジオ局の結託
ゲームのシュアを過小評価してきた声優事務所も、ここに至り、いよいよ本腰を入れることになります。
当時の稼ぎ頭であった人気声優達も中堅となるにつれて、人気も頭打ちとなり、少ないアニメ枠の中で新人声優の育成の場にも苦慮していた事務所関係者は、とうとう当時の仕事を共にしていたゲーム関係者に新人デビューの場をゲームにゆだねることを相談したりします。
ゲーム会社サイドも有名な声優を使用することで作品の宣伝効果にも繋がり、またスタッフも「あの声優さんに会える」という私的な理由もあいまって、有名無名を問わず、声優を使用するゲームは加速度的に増えていったのです。
一方、ラジオの深夜放送枠では視聴率の低下が問題とされていました。10代から20代までのメインの視聴者がTV,ラジオから離れてゲームやレンタルビデオなど、新しいメディアに流れたためです。
ラジオの制作ディレクターは、視聴者離れをなんとか食い止めるため、新しいメディアである「ゲーム」と手を組みます。もともと「オタク」であった文化放送の佐々木ディレクターは、ゲームの情報を番組を使って優先的に流す一方、ゲームの「顔」である声優をパーソナリティーに据え、ゲームの世界観を使用したドラマ,歌など流す番組を企画します。
また視聴者との距離を従来の「葉書,封書」だけでなく、FAXや電子メールなどの新しいコミュニケーション手段も利用し、埋めていきました。
こうしてラジオの深夜枠は「声優」の番組で埋め尽くされます。
評判が上がれば他局も追従し、NHK以外のラジオ局はAMからFM、短波に至るまで「ゲーム、アニメ、声優」一色となりました。
最近では声優だけでなく、ゲームのプロデューサーや花形プログラマーをパーソナリティーに据える例、またゲームに参加していない新人声優をムリヤリ使用してしまう例など、暴走も目立ちますが、おおむね視聴率は良いようです。
#筆者注 現在はいわゆる「アニゲ番組」も聴取率の頭打ちやスポンサーだったゲーム会社の撤退で、かなり苦戦しているようです。
以上、199911月加筆
ある程度知名度が上がるとアニメのレギュラーへ、と行きたい所ですが、歌やドラマのCDの仕事は増えてもゲーム絡みが多く、前に説明した通りアニメ枠自体が少ないので「アニメの仕事がない声優」という、一種本末転倒な事態を引き起こしました。
5,アイドル声優の誕生
さて、声優とは「声」の俳優であり、もともとは役者のアルバイト的な立場だったのですが、最近ではその位置付けも随分変わりました。
声優には2通りあります。乱暴な分け方ですが、声優に「成れた」人と、「成ってしまった」人です。
特に、「成ってしまった」声優は元々舞台俳優や2流で終わったアイドル達が転向した例が多く、性格的にも「役者」「歌手」肌である場合が多々あります。
彼(彼女)等は元々舞台や歌手を目指しただけあって、演技,歌,舞台映えもよく、話しも軽妙でイベントやラジオのトークなどは局アナも舌を巻く程でした。またファンへのサービスも怠らなく、話題のゲームの情報などはしっかり勉強してイベントに備えるなど、その「プロ」ぶりはファンだけでなく、ゲーム会社のスタッフに確固たる信頼感を植え付けました。
いっぽう、声優を目指して「成れた」人々は、もともと「ゲームやアニメ」が大好きな世代です。先輩声優に追い付かんと、イベントやDJのトークは一生懸命勉強するのですが、肝心の「演技力」はまだまだというのが多い、との意見が制作スタッフや事務所のマネージャーの大部分です。
これは仕事の現場で磨かれる機会が少ないのが原因でもあるでしょう。また、「アニメの仕事」がしたいと言う理由で「役者」であるはずの声優をめざす人も多いので、キャリアが短い所為でもあります。 また、極端な例では声優養成所の面接では、「歌やイベントをやりたい」という、勘違いした志望者も増えていると聞きます。
現在の声優とは、決して役者だけでは成り立ちません。芝居がやりたくても、CMやイベントのナレーターの仕事もこなさなければ生活はおぼつかないでしょう。アニメのレギュラーを取れたとしても、出番がなければその週のギャラは無いのですから。
6,声優への道
最近の専門学校のカリキュラムに「声優」の文字がやたらと目に付くようになりました。しかし、本当に声優を目指す高校生たちの受け皿と成りうるかは、甚だ疑問と言えるでしょう。
この分野で最大手の「代々木アニメーション学院」では、毎年多くの人々が声優科の門を叩くそうですが果たして何人声優に成れるか、そして何人生き残るか疑問は尽きません。
彼らが学院に払う授業料はその設備投資に当てられ、とうとう国内で最高の設備を誇るスタジオと成るにいたって、「商売」の2文字が頭を過ります。
では、各声優事務所が運営する養成所はどうでしょうか。養成所に払う授業料は、専門学校と同程度かそれ以下だそうです。しかし、入るのには厳しいオーデションと面接があり、毎年50名程の枠に何倍もの希望者が殺到するそうです。これに漏れた人達は「専門学校」に行くか「浪人」するか自分で判断するのでしょう。
養成所では事務所の所属声優が講師に当たり、また「声」だけでなく実際の演技,歌や日舞など多岐に渡り、卒業公演での事務所の声優、マネージャー、役員のチェックで役者としての技量を判断されます。
この選に漏れた者は当然、事務所所属の声優とは成れません。多くは夢敗れて業界を去ることになります。
また、運よく残った者も、安易に喜べません。見習いとして「準所属声優」となっても、2年間マネージャーに厳しくチェックされ、仕事を取れそうに無いと判断された場合には所属契約を解除されます。
この場合、他の声優事務所に入るか「フリー」となるかの道が残されますが、声優としての道はほとんど残されてはいないでしょう。 ゲームの仕事をしたが、発売までの期間に引退してしまった若手声優も、実際私は見ています。
では、運よく声優に成れたら?
駆け出しの頃、または養成所時代の話しを聞きますと、まさに「貧乏」を絵に書いたようです。
ウエイトレス,塾の講師は言うに及ばず、中には女性でもガソリンスタンドの店員などいわゆる「フリーター」ですが、声優の仕事が入ればバイトは休まざるを得ないので、生活は実に不安定です。
この頃の貧乏暮らしは概して健康度に影響します。ある程度仕事が取れるようになった時点で健康に不安の尽きない人や、食生活を一気に好転させ肥満になる人、また超売れっ子の生活で過労で倒れる人など、売れたら売れたで大変なようですが、逆に仕事に有り付けず、ひっそりと業界を去る人々が大部分です。
「売れっ子」とはいえ、イベントやラジオの仕事が無いときには疲れ切って自宅でゴロゴロとしているそうで、演技や歌など、本業の訓練もままなりません。
また、売れっ子と言っても、役者のギャラはキャリアに比例しますので、人気にふさわしいギャラというのはなかなか出ないそうです。
人気があるからといってあぐらをかいていると、他の声優にどんどん仕事を奪われるので、仲良くなったゲームやアニメ、ラジオ番組のスタッフに次の仕事の打診をしたりと、マネージングもある程度こなさなければなりません。
7,声優ブームとは?
なんぞや?と、私も知りたいのですが(笑)オタク世代の制作者と、仕事が欲しい声優事務所、無難に売れれば何でもいいラジオ局、レコード会社、出版社の結託、そしてアイドルが欲しかったユーザーの共同作業と私は見ております。
こう断言するのはツマランのですが、実際、アイドル声優は演技は2流、歌も2流、顔は若いから多少見れるが性格は「役者肌」、あまやかすとテングとなり、身体は弱いというがっかりなタイプが実に多い。そりゃー中にはホントにいい子もいるんだけど実に希な存在で、だからこそ人気も1番になるんでしょう。
一緒に仕事をして楽しい、また一緒に仕事をしたい。と、制作者に思われない人気先行型の声優は、現在、確実に仕事を失ってきています。
8,まとめ
さて、前にお送りしました声優番付を見まするに、男性と女性では趣も変わっております。
#筆者注 ここで発表する為に「声優番付」は削除しておりますが、当時の声優雑誌などをご覧になれば多分乗っているでしょう。
以上、1999年11月加筆
特に男性では実力と人気がほぼ一致し、若手,中堅,ベテランが程よく交じった、実に納得のゆく投票結果といえます。
女性編では、演技力と人気が必ずしも一致をしておりません。
現在、演技力,歌,キャラクター,そして制作者の評判も上々の「中堅」林原めぐみがトップ、「作られたアイドル声優」ラジオとゲーム中心の國府田マリ子とSONYの秘蔵ッコ、椎名へきるが上位に食い込んでいるのは、なかなか興味深い所です。
また、「セーラームーン」の出演者が確実に落ちつつある中、「エヴァンゲリオン」のレギュラーをつかんだ三石琴乃、同じくエヴァのレギュラーで新人中トップに踊り出た宮村優子 など、枚挙にいといません。
さらに、最近結婚された井上喜久子と、「ポスト井上」岩男潤子や、エヴァの主役でありながら、パソコン通信上のファン投票であった所為で、ファン層の中心である女性票が少なかったため中位にあまんじた緒方恵美など、実に多くの情報が読み取れました。
#作者注 実名出された方々、ごめんなさい。でも、真面目に論じるのであれば実名を出さないわけにはいかないんです。
以上、1999年11月加筆
若手でも、マスコミへの露出が少ない声優は人気も少なく、逆に露出が多ければ人気が高くなる傾向がみられます。この事からも声優人気が、「作られたアイドル」に依るものだと言えるのではないでしょうか。
おわり
かんたんに、とのことでしたが、随分と長くなってしまって申し訳ございません。昔から「レポート」「論文」の類に燃えるタイプだったものですから。(笑)
質問、要望などございましたら、御遠慮なくどうぞ。
以上、知り合いのフリー編集者への私信を転載いたしました。
ここまで改めて読み返してみると、我ながらなかなか真っ当な意見を書いてるように思います。
ここまでで興亡の「興」の部分は一区切り付いたでしょうか?この後はいよいよ「亡」の部分に入りますが、改めて申し上げておきたいのは、私はギャルゲーが大好きですし、ギャルゲーの仕事も大好きです。本当ならこのままギャルゲーが栄えていって欲しいと願っているのです。もし、このつたない文をお読みになったゲーム会社の方がいらっしゃったら、是非この「総括」に参加していただけないでしょうか?ゲーム業界が停滞したといわれる今こそ、今までの道を振り返り、正しく理解した上でさらに前進していきたいのです。
この件に関しましてメールやBBSに書き込まれた記事などは、この「ギャルゲー興亡史」などで公開させていただくこともあります。当然お名前や会社名などの秘密は守らせていただきますし、転載する場合は許可を求めるメールを出させていただきますので、是非アドレスなどもお知らせ下さい。
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