第二章ギャルゲー誕生前夜
しばらく間が空いてしまいましたが、早速参ります
1,ゲームとアニメの融合
いわゆる「声優ブーム」が起こったのは、今から4ー5年前でしょうか。それまでにも「ヤマト」や「うる星」の時にもブームはありましたが、声優のアイドル化はなかったように記憶しております。
昔と今の違いは、何といっても「アイドル歌手」の不在でしょう。いつの時代でも人々はアイドルを求めて来ましたが、メディアの多用化や、タレントの粗製濫造で世間の感心もすっかり薄れ、すべての世代に高い認知度を誇る国民的アイドルの姿はすっかり見なくなりました。
しかしいつの世でもアイドルを求める人々は尽きないものです。
ちょうどそのころ技術革新を迎えたパソコンは、高スペックCPU,大容量メモリーなどを装備し、それまでに無い高水準のソフトを供給出来るようになりましたが、 多くのゲームソフトメーカーは、機器のスペックをプログラムの処理能力の向上に反映させたので、「絵が出る」「音が出る」といった単純な技術をどのように使うかは、ほとんど見向きもされませんでした。
「絵と音」、「アニメキャラ」の使用などは、大手出版社とのタイアップがほとんどで、ソフトハウスの社員の中にも、オリジナルのキャラクターを使用したゲームを開発する意欲のある人達は多かったのですが、それまでのゲームの鉄則として「ユーザーのキャラクターとの一体感を得る為には、キャラクターの自律行動を極端に抑制しなければならない」といった古い考え方も、まだ根強くありました。
#筆者注
今でもRPGなどでは主人公の台詞が「・・・・」とか「ああ」「うん」など、曖昧な表現をする場合が多い。しかし、私は物語を強力に進行する役をこそ、主人公に努めて貰いたいと思う。「主人公への思い入れをユーザーに楽しんで貰う」というなら、特に。
なぜなら、主人公の自己主張が極端に少ない場合は、物語は他のNPC(ノン・プレーヤー・キャラクターの略。プレーヤーが直接操作出来ないキャラクター)の強要や、用意されたイベントに巻き込まれるパターンによって進むことが多くなり、ユーザーのストレスの原因にもなるからである。ドラクエの王様との不毛な駆け引きや、お使いイベントも確かにストレスではあるが、私はRPGをやるたびに主人公に対して「もっとはっきりせんかぁ!」とつぶやくのである。まあ、これも一種の感情移入なのかもしれない。
以上、1999年11月加筆
このころ、アニメ業界ではバブル時代に過剰供給したOVA市場が、その粗製濫造により破綻、TVの放送枠もバブル崩壊や子供達のアニメTV離れ(これは5ー8時までの塾通いなどのせいもありますが)などで縮小傾向にあり、アニメーターや声優達の仕事の場もだんだんと失われていったのです。
さて、アニメの仕事を失った制作者達の中に、ゲームに目を付けた人々がいました。最初は、内輪の友人たちのちょっとしたアルバイトで、「ゲームの女の子のキャラクターをデザインしてくれ」といった感じだった仕事だったのですが、プロの書く女の子のかわいさはユーザーと、そしてなによりゲームのプログラマーにも大人気だったのです。
PC98のゲームソフトは、あっという間にアニメ絵の女の子一色となりました。
2,育成シュミレーションゲームの誕生
こうなると、アニメ畑の企画者も続々とゲーム業界に参入し始めました。とはいっても、まだ個人的なレベルであり、その規模も現在ほどではありません。
GAINAX制作の「プリンセスメーカー」、ELFの一連の作品など、アニメ絵に慣れたユーザーの前に、とうとう「キャラクター」を前面に押し出したゲームが出ました。ヘッドルーム制作の「卒業ーグラデュエーションー」です。
このゲームは、「プリンセスメーカー」のゲームシステムにキャラクター性を加味し、キャラの人数を増やしただけではありますが、なにより、まずキャラクターの家族、生活、性格などをあらかじめ制作者が作り上げるといった、まさにアニメのキャラ設定をそのままゲームに持ち込んだ所、そして悪音質ながら声優を使用し、ユーザーのキャラクターへの思い入れの方法論にアンチテーゼを投げかけたところがゲーム業界に新風をおこしました。また、このゲームでは人気声優による音楽CD,ドラマCD,コミックス,ラジオドラマなど、現在の「ゲームのメディア展開」のノウハウの基礎を築いたのです。
#筆者注
この頃、私が当時社員だったTWOFIVEは、PC98で大人気だった同級生のサントラ制作の仕事をしている。
発売元のNECアベニューから提示された予算は、当時としても、とても全曲入りの完全サントラとしては不可能な金額だった。PC98の音源からそのままDATに録音し、CDにする方法もあるが、私たちとしては、とてもそんなぞんざいな制作をするわけにはいかない。我々にも「音楽家」としての誇りがあるのだ。たとえ技術が万全ではなくても、「自分たちが出来る最善のこと」をする義務がある。我々はプロなのだから。
そこで、我々は曲の合間にドラマを入れて分数を稼ぐ方法をとり、楽曲を限定してフルアレンジを行う方法を採った。まさに苦肉の策だが、我々の意図は当然「曲は少なくても完成されたアレンジをすること」だったのだ。
結局このCDは3万枚を突破するという、当時のTWOFIVE制作のCDでは最高の売り上げだった。当然、ゲームの売り上げに比例しての事だったのだが、我々の予想は見事に裏切られた。楽曲のアレンジより、ドラマ部分が大受けだったのだ。
このことでノウハウを得た我々は、楽曲とドラマCDを融合させ、さらに予算を圧縮する方法でCDを作りまくった。「作りまくった」というのは言葉は悪いかも知れないが、必ず前回作ったCDよりもっと高グレードの物を作る、という姿勢だけは崩さなかった。
たとえ過労で病院にかつぎ込まれても(笑)
3,恋愛シュミレーションゲームの誕生
さて、これまでパソコンゲームの18禁ゲームで高い評価を得てきた(株)ELFは、それまでのアドベンチャーゲーム(ユーザーがゲームの世界の主人公となって、その世界観を楽しむゲーム)に新たにキャラクター性を持ち込んだ結果、主人公がゲームの中の女の子達と恋愛するというシステムを確立しました。
これは、もともとHシーンの絵を見る為のゲームであったはずが、女の子のキャラ設定とシナリオを追求した結果、恋愛上でのHでないとシナリオやキャラの人格が破綻してしまう理由からだったのですが、これがユーザーに大変な支持を受けました。なんと、ユーザー自身がゲームのキャラクターと擬似恋愛に陥っていたのです。
このシステムを使用した「同級生」シリーズは、現在でも高い評価を得ております。
一般にコンシュマーゲームと呼ばれる、任天堂,SEGA,NECの家庭用ゲームのプログラマー達にも、これらの育成、恋愛シミュレーションのファンは多くいました。
家庭用ゲームでは、CD−ROMを装備したSEGAやNECのゲーム市場では、女の子のキャラクターを使用したパソコンゲームの移植作品が多く有りましたが、多くはNECの「PCエンジン」に集中していました。これはSEGAの「メガドライブ」が特にコアなゲームファンが多く、保守的なファンが女の子のキャラを使用したゲームを拒否する傾向にあったこと、ゲーム本体の値段が多少SEGAの方が高いことがあります。
さて、ELFの「同級生」などに影響された(株)コナミの社内でも他社同様、恋愛シュミレーション開発の気運が高まりましたが、やはりゲームソフトメーカーのトップクラスである自負と、社内の保守勢力のキャラ性抑制派の影響で、なかなか参入できずにいましたが、とうとう社内革新派による「H」抜きの同級生、「ときめきメモリアル」を発表しました。
予算を押さえられた結果、キャラデザイナーによる「女の子の絵」や有名声優などは使えなかった分、ゲームデザイナーによる抜群のゲームバランス、キャラ設定、そしてなによりスタッフの愛にささえられ、当初の評価に反し爆発的な大ヒットとなりました。
この大ヒットの背景には、献身的なファンの宣伝活動も見逃すことは出来ません。NIFTYのゲーム会議室上でのファン活動は、新たなファンを呼び、大盛況となりました。(この顛末は、インターネット上の「おたく大学ホームページ」にて詳しく書かれています。)
#筆者注 現在、おたく大学HPは消滅しております。
大ヒットに気をよくしたメーカーサイドも、社を上げてキャラゲームを盛り立てることを決意。シューティングゲームにムリヤリ女の子の設定を押し込み、その声優として國府田マリ子をあてていた(株)コナミも、この「ときめきメモリアル」のヒロイン「藤崎詩織」と、その声優である金月真美を社の専属声優として前面に押し立てることとなったのでした。
ごめんなさい、続きます。